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読書

2018年本屋大賞を受賞した辻村深月『かがみの孤城』を読んで

本作のタイトルは「かがみの孤城」です。古い城ではなく、孤独な城。
孤城とは、ただ一つぽつんんとたち、誰も援軍に来ない城のこと。
本作では、学校になじめず、1人でどうしようもできなくて悩んでいる子供たちが登場します。まさに孤城のように、寂しく今にも崩れ落ちそうな心を守るために踏ん張っている子供たち。
そんな彼らが不思議な城に集められ、願いをかなえるカギを探すという物語です。

あらすじ

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
以上、アマゾンより引用。

リアリティある戦いの物語

現実世界ではなく、かがみを通してのみ入れる仮想空間で交流を深めていきます。
その設定に対しては、かなりすんなり馴染むことができました。私の世代にはおなじみのオンラインゲームのようなものを想定したからです。

最初は映画のハンガーゲームのように子供たち同士が非情な蹴落としあいをするのかと邪推と好奇心を持ちながら読みました。
しかし、実際にはそのような展開ではありませんでした。子供たちがお互いに闘う場面は一切でてきません。

その代り、子供たちが闘うのは鏡の外の世界、つまり現実世界です。
子供たちはそれぞれが抱える現実に対し、時には1人で、時には誰かの助けや理解を支えにして向き合っていきます。
そういう意味では、ハンガーゲームよりもより身近でリアリティのある戦いの物語でした。

強固な絆が読者と子供たちをつなぐ

主人公のこころの視点が、とても繊細なタッチで細かく描写されています。
いじめられて学校にいけず、外の世界を恐れるこころの気落ち。自身を理解してもらうことで、こころが本当に安堵し、言葉よりも先に涙がこぼれる瞬間など、まさに自分のことのように登場人物たちとリンクします。
そして、その強固な絆が読者と子供たちをつなぎ、彼らの立場になって彼らの見ている世界を知ることができます。
そのときにはじめて、繊細な子供たちの悩みを、周りの大人が誰か1人でも理解してあげることの必要性を強く認識させられました。

違和感を大切にしてヒントを見逃すな

面白い本は、いろんな楽しみ方ができるものです。
それと同様に本作も、上記で紹介した魅力のほか、上質なミステリーとしての顔を持っています。
願いをかなえるカギはどこにあるのか、なぜ子供たちはかがみの孤城にあつめられたのか、狼の女の子はいったい何者なのか……。
物語に夢中になるあまり、作者が用意したミスリードにまんまとひっかからないよう御注意ください。

この物語には、願いのカギを見つけるための多くのヒントが隠されています。
少しでも違和感を感じたら、少々ページをめくる手を休めて、その違和感の正体について考えてみることをおすすめします。
そうすれば、謎解きという面白さも加わって、よりこの物語を楽しむことができます。

読んだ後だからこんなことが言えますが、何を隠そう私も、こころたちの繊細な心理描写と彼らをとりまく状況に気を取られ、作者にひっかけられた口です。そのため、いつのまにか最後の種明かしにさしかかり、「あーなるほどなぁ、」と感心するだけになってしまったことを後悔しています。
もう一度最初から読んで、巧妙に散りばめられているヒントをたどっていこうと計画中です。

子供だけではなく、大人にも救われる場所を

子供たちが生きていく場所はひとつではない、その子供のあった環境をいつでも選べるようにすることが大切なのだというメッセージを本作から受け取りました。
私はまだ独身ですが、将来できる自分の子供が「学校にいきたくない」と言ってきたら、どうしようかなと考えたことがあります。
今のところ、子供の事情をよく聴き、理由次第では無理に学校に行かせなくてもいいかなと思っています。
この物語の子供たちは、何かが辛くて学校に行きたくない、そして学校にいけない自分を周りと違うから落ちこぼれなんだと思い込み、さらに自分を責めて苦しんでいます。
そうならないように、学校はあくまで選択肢の一つであり、学校の外にも広い世界があることを自分の子供に知ってほしいな、と考えてます。

そして、我々大人に対しても同様なことが言えます。
周りと自分が違うことで、1人で悩み落ち込む大人って結構多いのではないではないでしょうか。
もしかするとそれは、精神的な障害や性的マイノリティーなど、今の時代はまだ周囲の理解を得ることに時間がかかる事柄で悩んでいるのかもしれません。
そんな人は、他人が作った過去の常識で生きると本当につらくなり、自分の価値を見出すことができなくなります。この物語に登場する子供たちのよき理解者 先生がしてくれたように、今を生きることが辛い人はいったん休憩して、人に頼ってみたり、辛い場所から身を引いてみたりすることも大切なのだと学びました。
この本を読み終えるころには、人の生き方は一人ひとり違っていいんだと心から思えるようになります。